松山の、思い出

愛媛に出張に行く。初四国上陸。岡山での取材を終えて、夜の特急で瀬戸内海を渡る。月明かりに光る海の深さ。海を越えた四国の湾岸で、工場を浮かび上がらせる無数の照明。ちらちらと燃える炎。松山の街。お堀と古い古い路面電車

当然到着したころには夜の十時を過ぎていて、レストランなんてどこも開いていない。女一人、困る。が、そこはもう割り切ったもので、路地を曲がった向こうの居酒屋で、ビール片手に松山名物のヤキトリを食す。はい、親父化してますが、何か?
何よりもおいしかったのは、食後に出てきた一杯のお味噌汁。ちょっと甘くて、まろやかな味噌に、お麩が1つ、2つ浮かぶ。京都の白味噌ほどの濃厚さではないが、しっかりとしたやさしい味があって、おいしい。私の生まれた東北の味噌汁は、もっともっとしょっぱくて、ご飯を食べたくなる、というか、味噌汁でご飯を食べるのがおいしい。だけれども、松山の味噌汁は味噌汁そのものを味わうかんじ。地方の独特の味は、味噌汁に出るというのが、私の持論。もう日が変わるであろうという時間に食した松山の味噌汁は、一口すすっただけで、愛媛の食文化に興味を持たせるに十分なインパクトがあった。

食文化の伝承だとか、なんだとか、声高に叫ぶ方々がいて、それはそれで必要なことだとは思うのだけれど、本当はそんなに無理をする必要は無いのではないのかしら。否が応でも、おいしいものは受け継がれていくのだから。きっと、本人たちも気が付かないような、ささやかなところで。