日本スーパーマーケット創論

日本スーパーマーケット創論 内食提供ビジネスのマネジメント

日本スーパーマーケット創論 内食提供ビジネスのマネジメント

元サミット会長の荒井伸也氏が「スーパーマーケットという高等動物的システム」のできるまでを執筆した書籍。

荒井伸也氏は、「安土敏」というペンネームで多数の小説・エッセイを執筆している。伊丹十三監督の映画「スーパーの女」の原作・アドバイザーも務めており、流通小売業界内では非常に著名な人物。……なのだけれど、一般の認知度的にはまだ今ひとつの感があり、非常にもったいないなぁ、と私は感じている次第。

本作は、スーパーマーケット向けの専門誌「食品商業」上での氏の連載をまとめたものだ。1950年代〜60年代にはじまる、スーパーマーケットという、あらゆる人々の暮らしに密接している商売の成り立ちが、つまびらかに解説されている。

スーパーマーケットという業態は、アメリカから輸入されたものなのだけれども、日本人はまず形から入ることが多くて、アメリカのスーパーマーケットの「見た目」だけを真似してしまった。
ところが、見た目だけではそのスーパーマーケットの社会的機能としての本質、つまり「日常のおかずを提供する市場」を作ることはできなかったのだ。

スーパーマーケットは意味不明のまま「何かしゃれた新しいアメリカ的な小売業」として、たちまちのうちに日本社会の中に広まり、その普及速度の速さに比例して、その本来の意味の中から、市場(いちば)のニュアンスが失われ、それとともに「食品中心、つまり内食提供業(おかず屋)」(つまり市場の社会的機能)という機能的味方が消えてしまったのである。

本書には、先人たちが、いかにして「スーパーマーケット」の解釈の間違いと、真の意味に気付いたのか。そして、荒井氏が人々の暮らしに密着したスーパーマーケットを、「サミット」という関東中心に展開されている店舗において実現したのか、が記されている。

日本の食の独特さ(新鮮な魚を食すること、スライスされた肉が販売されているため、その鮮度管理が非常に難しいこと)に触れた点や、荒井氏が、肉・魚を扱う職人が跋扈するスーパーマーケットの現場を、いかに「オールラウンドプレイヤー」が活躍できる店にしたのか、などなど、非常に興味深い記述が多い。

手前味噌ではございますが、いい本だと思うので、食品小売業と、その経営に興味がある方は、是非ご一読いただけるとよいかと思います。